メンバ関数呼び出し(thiscall)の補足
前回の記事にありましたメンバ関数の呼び出し規約(thiscall)について少し補足しますと、この呼び出し方法は一部のコンパイルで採用されているもので全てのコンパイラに当てはまりません。ちなみにVisual Studio 2008のC++コンパイラも違うやり方を採用しており、thisポインタをスタックに積むのではなくECXレジスタに代入します。thisポインタをECXに保存するとメンバ変数にアクセスする際に高速に処理が行えるのでこの方が効率的かと思います。思い出話をしますと、Visual Stduioの昔のバージョンでは、thisポインタはスタックに積まれていたと記憶しています。ADPの高速化に際してアセンブラコードを読んでいて『なんか変だな・・・』という感じで調べるとVisual Stduio 2008ではこのようになっていると気づきました。
仮想関数とif文
前回の記事に「仮想関数の説明はしない」と書きましたが、よくよく考えると仮想関数の仕組み(というか利用方法)を書かないと言いたいことが言えないことに気づきましたので書きます。仮想関数の有効性を示す例を示します。
以下、C/C++の擬似コードになります。if文を用いてデータタイプを判定しデータタイプに応じた変換を行い、valueの内容を文字列に変換しています。
char buf[512]; if ( value_type == int ) { sprintf( buf, "%d", value); } else if ( value_type == double ) { sprintf( buf, "%f", value); } else if ( value_type == char* ) { strcpy( buf, value); }
ここで、個別の変換処理(sprintfやらstrcpy)を仮想関数に置き換えます。
virtual int::to_string(char *buf) { sprintf( buf, "%d", value); } virtual double::to_string(char *buf) { sprintf( buf, "%f", value); } virtual char*::to_string(char *buf) { strcpy( buf, value); }
呼び出し部分のコードは、以下のとおりになります。
char buf[512]; value.to_string(buf);
仮想関数とはデータのタイプに合わせて実際のメンバ関数が呼び出される言語の機能になります。ここで、to_stringが仮想関数になり、実際に呼び出されるメンバ関数は、valueのデータタイプ(intやらchar*)に合わせて呼び出されることになります。ちなみにC++ではintやdoubleはクラスではないのでこのような仮想関数を作成することは出来ませんのであくまでも例になります。
仮想関数ですが、一見ややこしいですが、『データタイプに合わせて処理を行う』ような場合にはほぼ問題なく仮想関数に変換できるかと思います。ADPはC++で作成していますが、多くの場面で仮想関数を使っています。
例ではかなり端折っているので便利さが伝わりにくいですが、仮想関数を用いるとswitch文が減る(switch文もif文の一種と考えられる)といわれているとおり、今までif文が連なっていたコードが
value.to_string
とすっきりと記述出来るようになっています。重要な点はif文で書かれたコードブロックが to_string に置き換わり抽象度が上っていることです。抽象度が上がることが必ずしも可読性が増すわけではないですが、仮想関数を用いると呼び出し側のコードがすっきりとすることは分かるかと思います。
本記事のテーマである制御構造のいろいろという観点でみますと、仮想関数とはif文と関数呼び出しが混ざったものとも理解できます。
ちなみに、オブジェクト指向というとどうしても大きな括り(動物クラスとか社員クラスとか)の話になりますが、int型とかdouble型のような基本的な型でも行うことが出来、結構便利だったりします。C++では、intやdoube型ではメンバ関数を作ることが出来ませんが、Rubyのように使える言語もありますので試す価値はあります。またADPも同様なコードを記述することができます。
ADPのユニフィケーション(パターンマッチング)
前節で、仮想関数はif文と関数が混ざったものと説明しましたが、ADPでは関数呼び出し(述語の評価)に際しては、まずユニフィケーションが行われます。これは仮想関数を一般化しより強力かつ柔軟に呼び出すべき関数を選定できると考えることも出来ます。ユニフィケーションについては、こちらを参照下さい。
続いては、公開1周年記念特集記事として『プログラミング言語の制御構造のいろいろ(4)』を書いてみます。